COOK
鈴木慶一くんと、
非時事放談「月光庵閑話」。

矢野顕子をほめる。(3)
あっこちゃんはムスメもすごい。

糸井 もうひとりの矢野顕子は、作れないんだなあ。
鈴木 ムスメ(坂本美雨)は、どうかな。
糸井 ああ、ムスメはやっぱり、いいよねえ。
鈴木 ふたつ、混ざってるからねえ……。
糸井 ムスメ、やっぱりさ、歌に対する愛情みたいなものが、
あの声に入ってるよね。
ただ、まだカタイんだよな。
唯一、あっこちゃんのデビューと違うのは、
美雨ちゃんは、恐ろしいものを見て暮らしちゃった。
鈴木 多分そうだね。その通りだね。
糸井 リハの時のあっこちゃんに近いようなものが、
まだあるんだろうね。
あれが、シャバダバ(即興の歌)を始めたら、怖いね。
今、楽しみでしょうがないのは、
宇多田ヒカルと坂本美雨っていう2人がいることだ。
鈴木 気になりますよ、私も。
糸井 全然違う育ちをするんだと思うんだけど、気になるよね。
音楽を本職にするとすれば、
抜きつ抜かれつ、になると思うんだよ。
で、どっちも、現われ方がまだ見えないけれども、
「やーめたっ!」
って言う可能性さえあるような気がするんだ。
鈴木 あるよ。
糸井 そうか、慶一くんも思ってた?
鈴木 思ってるよ。それは、NYって場所も含めて、
なんかね。自由の二乗みたいなね。
糸井 宇多田も惚れさせるしね、あの美雨ちゃんの、
「まっとう、というのはちゃんとやっといたほうがいい」
みたいな育ち方も、すごく興味があるんだ。
俺が見たところ、あっこちゃんって、じつはすごく
気取り屋さんなんだよ。
だから矢野顕子の特別な面が見えるのは、
トーク番組に出た時の矢野顕子なんだよ。
これはね、気取り屋さんなんだよ。
これはみんな知らないんだけれども、
「ああいうヤツじゃ、ねえぜ」
ってところが、しょっちゅう見えるんだよ(笑)。
とくにおかしかったのはね、『すばらしき仲間』っていう
トーク番組があって、座談会番組なんだけど、
他の人が気取ると、それに負けずに気取ってるんだよ。
極端に言うと、「ですわ」って言いそうなんだ。
あっこちゃんって、カジュアルっていうものが
すごく好きだし、いつも意識しているけれど、
“毅然とする”だとか“ちょっと背筋を伸ばす”とかいう、
男で言うとネクタイ締めていいスーツ着て、っていう
「行くぞ!」っていうような気分を、
いつもあの人、持っていると思うんだ。
鈴木 ふたつ、あるんだね。
糸井 ふたつあるんだよ。美雨ちゃんは今、
「毅然の方をちゃんとやっとかないといけないな」
っていう気分がすごく感じられて、
ここをクリアすると、大人の世界をすべてクリアできて、
それで「自由」に戻れる。ちょっと回り道だけど、
この子の道、っていうのは、僕は楽しみだと
思ってるんです。宇多田ヒカルは、「毅然」は、
英語でならたぶんできるんじゃないかと思うんだ。
だけど、日本語を使うと、“ぼーっとした女子高生”の
ノリになっちゃうんだよ。
宇多田ヒカルのホームページって行ったことある?
鈴木 ないない。
糸井 面白いんだよ! いちばん売れている子の、
いちばん伸び伸びしている文章って、感動する。
「これから写真週刊誌にこういう写真が載るだろう」
なんてことは、あのホームページを読んでいる人は、
もうわかっちゃっている。
「どうせ、みんなで集まって
 HUGをしまくっているんだから
 そういう写真が載るに決まってるんですけど。へへ」
なんて書いているわけだ。
案の定、写真週刊誌がそれを追っかけて、
「抱きあっているのは誰!?」
なんて書いているわけだよ。
いちばんナマの宇多田ヒカルの気持ちを、
俺らは知っている。そう思うと、バカらしくなるんだよね。
メディアがいくら追っかけて、誰と抱きあってた、
なんて言っても。
鈴木 ザ・芸能界には数年前からそういう兆しは
あったんだけどね。
メディアうんぬんよりも先に、個人的な、
普段の動きが見え隠れする、っていう。
糸井 あったんだけれども、宇多田はひとりでやれている。
このごろはタレント同士が
次の番組はどうするなんてことを
決めちゃったりすることが増えているので、
芸能プロダクションが困っているらしいんです。たとえば、
「こんど舞台やるんだけど出てくれない?」って、
竹中直人くんが口説いたら、
プロデューサーが口説く以上に、
「竹中くんがそんなに一所懸命になっているのなら」
って気になるじゃない。
岩井俊二さんなんかはそういうことをやっていると
思うんだ。そういうノリで、新しい芸能の世界が
生まれているなっていう感じが、宇多田ヒカルを見ていて
すごくするんですよ。美雨ちゃんにしても、
ちゃんと丁寧な言葉がしゃべれるし、
理知的なんだけれども、こういう「ほぼ日」なんかに
何気なく、ただの高校生の生活を、
書くこともできるじゃない。
鈴木 「次はなにをつくろうかな、絵を描こうかな」とかね。
糸井 「仕事としては音楽なんだけれども、
 彼女は実は絵をやっているんだな」
ということがわかると、そっちも頑張れ、って
気持ちになるじゃない。
鈴木 リンク見ると面白いよね。ああいう人の。
こういうところにリンクしているのか、って、
それは個人的に興味があるってことだから。
糸井 面白い。本棚をのぞき見るような面白さがあるね。
鈴木 美雨ちゃんは、5歳とかそのくらいの時に、
スタジオによく来ていたよ。
糸井 来ていたね。
鈴木 たまげたことがひとつあってね。
かしぶち(ムーンライダーズのかしぶち哲郎)の
レコーディングをあっこちゃんと2人でやってたとき、
美雨ちゃん、初めて聴いた曲を、すぐに歌えるんだ。
5歳くらいで。
糸井 ああ、そうなんだ。
鈴木 すげえなあ、って。
母親にもすげえって思ってて、娘にもすげえって思う。
すげえの二乗。
糸井 親2人を見れば、当たり前って
言えるのかもしれないけれど……。
美雨ちゃんの将来が楽しみだなあ。
『鉄道員』の歌にしても、ああやってでき上がってみると、
他に歌う人はいないよな、って気になるんだよ。
鈴木 ああいうの見るとね、
「いいなあ……早めに子供ができた人は」
と思いますよ(笑)。
わかんないけどね、自分の子供がどうなるかなんてのはね。

1999-09-14-TUE

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